心理系大学院の入試は、大学ごとに出題の特徴が大きく異なります。しかし同時に、多くの大学院が 「公認心理師カリキュラムに沿った基礎力」 を重視した問題を作成しているという共通点もあります。この記事では、心理系大学院入試の全体的な傾向と、効率的な勉強法についてわかりやすくまとめます。これから受験を考えている人、勉強の方針が定まらない人はぜひ参考にしてください。
■ 心理系大学院入試の全体的な傾向
大学によって出題の個性はありますが、近年のトレンドとしては、以下の3つの柱が中心になっています。
- 心理学研究法
- 用語解説(基礎心理学・臨床心理学)
- 事例問題(臨床的判断・倫理)
公認心理師の養成課程をもつ大学では、特に「研究法」と「倫理・事例問題」を重視する傾向が明確にみられます。これは、公認心理師国家試験の構造を意識しているためで、大学院側としても「基礎的な知識・姿勢」が備わっているかどうかを測る意図があるからです。
大学ごとの個性としては、例えば精神分析志向の大学では「精神分析的視点で事例をどう理解するか」を問う内容が出たり、認知行動療法を重視する大学では「介入の枠組み」について問われることもあります。
しかし、どの大学でも外さない基礎がある。それが「研究法」「用語」「事例」の3つです。
■ 心理学研究法:今の院試では絶対に落とせない科目
かつては「統計は捨てた」という学生も一定数いました。しかし、現在の院試では 統計や研究計画を捨てるのはほぼ不可能 です。
とはいえ、院試で細かい計算が出ることはほとんどありません。
問われるのは、計算力そのものではなく、
- 分析モデルの理解
- 調査の流れ(計画→収集→分析→解釈)
- 分析手法の意味の理解
といった“心理学研究がどう進むか”という全体像です。
◎ 例題:令和2年度 東京学芸大学
問1
因子分析において「軸の回転」をおこなう目的について簡潔に説明しなさい。
ただし、「単純構造」および「解釈」の2語を必ず用いて説明すること。
模範的な説明例
因子分析における「軸の回転」は、得られた因子をより理解しやすい形に整えるために行う操作である。初期の因子解では、複数の項目が複数の因子に重なって負荷することが多く、そのままだと因子が何を意味しているのか判断しづらい。そこで回転を行い、特定の項目が特定の因子に高く負荷し、その他の因子にはあまり負荷しない状態――いわゆる単純構造に近づけることで、因子の特徴がより明確になる。
この単純構造に近づくと、それぞれの因子が示す心理的概念を説明しやすくなり、因子に名前をつけたり、結果を応用したりする際の解釈が大幅に容易になる。回転には直交回転や斜交回転といった種類があるが、どの方法でも目的は同じで、因子の意味を明確にし、分析結果をより実用的にすることである。
このように、院試では 理論的意味を理解しているかが問われます。
「なんとなく因子分析を知っている」では通らないので、教科書的な理解を丁寧に積み上げる必要があります。
■ 事例問題:論点が明確な問題が出やすい
「事例問題には正解がない」と思っている受験生も多いのですが、大学院入試の事例問題は 採点するために論点が明確 です。
つまり、「どこがテーマなのか」を瞬時に読み取るトレーニングが重要になります。
◎ 例題:2025年度 放送大学
第3問
中学2年生の女子生徒Aがスクールカウンセラーのもとにやってきた。「先生に言えないようなことだったら、スクールカウンセラーのところに行って話をしたらいいと思うよ」という担任からのアドバイスで来談を決めたという。
彼女はつらい心の内をスクールカウンセラーに伝え、思い切ったといった様子で、実は自傷行為が止まらなくなっていると話した。そして、「このことは絶対に親や先生には内緒にしてほしい、スクールカウンセラーだけの心の内に留めてほしい」と頼んできた。
あなたがAのスクールカウンセラーだとして、どのように対応するか。その理由も含めて述べなさい。
◎ 回答のポイント例(インテーク+集団守秘義務)
まずは来談をねぎらい、「話してくれてありがとう」と受容的に関わる。そのうえで、Aが現在どれほどの苦痛を抱えているのか、
- 自傷行為の経緯
- 家庭環境
- 学校での様子
- 生活リズム・対人関係
など、安全に関わるための重要情報を丁寧に聞き取る。
次に、守秘義務についてインフォームドコンセントを行う。
“話してくれた内容は勝手に誰かに伝えない。ただし、命や安全に関わることの場合は、あなたを守るために必要な範囲で共有することがある”
と説明し、同意を得る。
さらに「集団守秘義務」の観点から、学校と最低限の情報を共有する必要性を説明しつつ、急激な介入でAが“裏切られた”と感じないよう配慮する。
◎ 事例問題で重視される論点
- 守秘義務/例外規定
- インテークの姿勢
- 自殺・自傷リスク評価
- 倫理的判断
- 多職種連携
事例問題は論点が明確なので、過去問演習が圧倒的に効果的です。
■ 用語解説
用語解説は別のページで解説を行っていますので、興味のある方はぜひ読んでください。
■ 効率的な勉強法:過去問は力試しではない
多くの受験生が誤解していますが、過去問を試験直前に一回だけ解くのは完全に間違いです。
◎ 過去問は教材であって模試ではない
- 解いたらその場で調べる
- わからない概念は教科書に戻る
- 模範解答を作る
- 3周、4周と回して暗記レベルにする
これが正しい使い方です。
大学院入試は「知識量よりも理解の深さ」が問われるので、過去問を通して“穴を埋める”作業が必須になります。
■ まとめ:心理院試は「王道の対策」で確実に受かる
心理系大学院入試で外せないのは、以下の3つです。
- 研究法を落とさない
- 事例問題で論点を外さない
- 過去問を徹底的に回す
大学ごとの個性はありますが、基本戦略は全国共通です。




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