「相談されやすい人」には理由がある
あなたの周りにも、「なぜかいつも相談される人」と「まったく相談されない人」がいませんか? 実は、これにははっきりとした理由があります。
多くの人が、会話というのはなんとなく成立するもの、と思い込んでいます。気が合えば話は続くし、合わなければ続かない。それも一理ありますが、ではなぜ“ある特定の人”には、みんながつい話してしまうのでしょうか。
それは、話を聴くことに『技術』があるからです。 そしてその技術を、職業としてトレーニングされているのが「公認心理師」や「臨床心理士」などの専門職です。彼らはただなんとなく聞いているのではありません。話し手が安心して、もっと話したくなるような聴き方を、意識的に実践しています。
今回は、そうした「聴く技術」の中でも、もっとも基本でありながら奥深い「アクティブリスニング(積極的傾聴)」について、公認心理師の視点からご紹介します。話し相手の信頼を得たい方、将来カウンセラーになりたい方、人間関係を深めたい方にとって必須のスキルです。
アクティブリスニングってなに?「傾聴」と何が違うの?
アクティブリスニングは、日本語で「傾聴」と訳されます。 しかし、この訳語のせいで「ただ黙ってうなずくこと」と誤解されているケースも少なくありません。
確かに「黙って相手を受け止める」姿勢は大事です。でも、本来のアクティブリスニングはもっと能動的な営みです。
会話の途中で相手の言葉を確認したり、言い換えて返したり、必要に応じて質問したりします。 「えっ、質問していいの?」「意見言ったらダメなんじゃないの?」と思う方もいるかもしれません。
でも大丈夫。 アクティブリスニングの目的は、相手の話を『より深く、より自由に』させること。質問も、意見も、目的にかなうものであれば問題ありません。
むしろ「聞きっぱなしで反応がない」方が、よほど相手にとっては話しづらく感じるものです。
なぜ話が続かないのか?「わかったつもり」が会話を止める
では、実際にどうすればうまく聴けるのでしょうか。
大事なのは、「自分は相手のことを何も分かっていない」と認識することです。
たとえば、友人に「昨日何してたの?」と聞いたとします。 「んー、ごろごろしてたかな」と返されたとき、あなたの頭の中には「布団の上でスマホをいじる姿」が浮かぶかもしれません。
でも、そのイメージは正確ですか? 朝から晩まで布団の上にいた? 食事は? 誰かと一緒だった? スマホでは何を見ていた? 本当にリラックスしていた?
「ごろごろ」の中身は、人によって、日によってまったく違います。
ここで「なるほど、ごろごろね」で終わってしまうと、会話はストップします。
アクティブリスニングでは、この「わかったつもり」から一歩踏み出します。 「具体的にはどんなふうに?」「どんなことをしていたの?」と、相手の言葉の奥にある体験を、もう少し丁寧に掘り下げていくのです。
このときのコツは、「詮索」ではなく「関心」。 問い詰めるのではなく、純粋に相手の世界をもっと知りたいという姿勢を持つことが大切です。
解像度を上げると、相手はもっと話してくれる
人は「伝わっている」と感じたとき、もっと話したくなります。
逆に、「この人には何を言っても分かってもらえない」と感じると、話す気持ちはスッと冷めます。
たとえば、あなたがとてもニッチなアイドルグループのファンだとして、誰かに「休日なにしてるの?」と聞かれたとします。 「〇〇のライブ映像見てたよ」と言っても、相手が興味なさそうだったら、それ以上話すのは難しいですよね。
でも、もし相手が「えっ、どんなグループ?」「どこが一番魅力なの?」と聞いてきたら? 「この人、ちゃんと聴いてくれるかも」と思って、つい話したくなりませんか?
それと同じで、相手がどんな体験をしてきたのか、どんな価値観を持っているのかを、こちらが同じ解像度で理解しようとすること。それがアクティブリスニングの本質です。
オープン・クローズドの切り替えは“タイミング”が命
質問には「クローズドクエスチョン」と「オープンクエスチョン」があります。
クローズドクエスチョンとは、「はい/いいえ」で答えられる質問。 オープンクエスチョンとは、「どう」「なぜ」「どんなふうに」といった、自由に答えられる質問です。
「今日は疲れましたか?」→クローズドクエスチョン
「どんなところが一番疲れましたか?」→オープンクエスチョン
クローズドクエスチョンは、話しやすくて手軽ですが、続けすぎると尋問っぽくなってしまいます。
一方、オープンクエスチョンは自由に話せる反面、相手にある程度のエネルギーが必要です。
そのため、オープンクエスチョンで話しかけるときは、相手が『話したいモード』になっているかを見極めましょう。
会話の冒頭ではクローズドから入り、徐々にオープンに切り替えていくと自然です。
また、「今日はちょっとしんどそうだな」と思ったら、無理に聞き出すのではなく、「話せそうなタイミングがあれば教えてね」と一言添えて、引くことも大切です。
アクティブリスニングの空気は小さな工夫でつくれる
聴く技術は、決して特別な才能ではありません。 ちょっとした意識と工夫で、誰でも話を聴ける人になることができます。
- 途中で話をさえぎらない
- 「それってこういうこと?」と確認してみる
- 感情に寄り添う言葉を挟む(例:「それはつらかったですね」)
- 話を整理してあげる(例:「つまり、〇〇でモヤモヤしていたんですね」)
こうした一つひとつが、相手にとって「安心して話せる空気」になります。
そして何より、「この人はちゃんと聴こうとしてくれている」という姿勢こそが、信頼をつくります。
カウンセラーを目指すあなたへ:聴く力は一生モノのスキルです
ここまで読んで、「思ったより奥が深いな」と感じた方もいるかもしれません。
実際、心理の専門職は、こうした“聴く力”を6年間以上かけて体系的に学びます。 大学4年間で基礎を学び、大学院2年間で実習とケースを通して、ようやく少しずつ身についていくのです。
でもこれは裏を返せば、「誰でも学べる技術」でもあります。
もし、あなたが「聴くことを仕事にしてみたい」「人の役に立つ形でこの力を活かしたい」と思っているのなら、公認心理師という道をぜひ一度、視野に入れてみてください。
心理の仕事は、年齢制限もなければ、今の仕事を続けながら目指すこともできます。 実際、30代・40代・50代から心理職を目指している方も少なくありません。
あなたの「誰かの話を、ちゃんと聴きたい」という思いは、それだけで貴重な才能です。
そして、その思いを支える知識と技術は、確実に存在します。
まずは明日、誰かのちょっとした一言に、「それってどういう意味?」と優しく続けてみてください。
きっとそこから、新しい会話が始まります。そして、その積み重ねが、あなた自身の聴く力を育てていくのです。




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