心理大学院の用語説明で大事なのは、「正確に描写できる力」です
心理系大学院の筆記試験では、「用語解説」という形式の問題がよく出てきます。
「認知的不協和」「転移」「防衛機制」など、心理学を学んだ人なら一度は聞いたことのある言葉が並びますよね。
でも、いざ答案用紙の前に座ると、「なんとなく分かっているけど、いざ説明しようとすると書けない……」という人が多いと思います。
その理由は、「理解していること」と「正確に描写できること」は、似ているようでまったく違うからです。
心理学は、人の心という曖昧なものを、できるだけ正確な言葉で説明しようとする学問です。
だから、筆記試験で見られているのは、ただ知っているかではなく、その概念を正確に、他人に伝わる言葉で再構成できるかどうかなんです。
「正確な描写」とはどういうこと?
採点者が見ているのは、あなたが心理学の用語を概念として理解し、論理的に説明できているかという点です。
もう少し具体的に言うと、次の3つの観点で評価されています。
- 定義の正確さ:教科書レベルで誤りのない定義になっているか
- 構造の理解:どんな要素が関係していて、どういう仕組みで成り立っているか
- 文脈の理解:どんな場面や理論で使われる用語なのかを説明できているか
この3つが揃うと、自然に“精度の高い描写”になります。
逆に、どれかが抜けていると「知ってるけど、ちゃんとは分かってない」文章に見えてしまいます。
例題:「認知的不協和」をどう説明する?
心理学で頻出の概念のひとつに、「認知的不協和」があります。
この用語を、実際にどう説明するかを比較してみましょう。
認知的不協和とは、自分の認知(考え・信念)と行動が一致していないときに生じる違和感を指す。人はその不快な状態を低減するために、自分の行動を正当化したり、認知のほうを修正したりして整合性を取ろうとする。
なんとなく意味は通じますが、心理学的には不十分です。
「考えと行動が合っていない」という部分が曖昧で、具体的にどんな矛盾を指すのかがわかりません。
また、「違和感」「不快な気持ち」という言葉も感覚的で、理論の説明としては抽象的すぎます。
採点者から見れば、「分かってそうだけど、正確には理解できていないな」と感じる文章です。
認知的不協和とは、個人が同時に保持している二つ以上の認知(自分や世界についての知識・信念・態度など)の間に、互いに矛盾する関係があるときに生じる心理的緊張状態を指す。L. Festingerは、人はこの不協和を低減するために、認知の一方を変化させる、新たな認知を付け加えて両者を調和させる、不協和をもたらす認知の重要性を低く見積もる、といった方略を用いると論じた。例えば「喫煙は健康に悪い」と考えながら喫煙を続けている人が、「一日に数本なら問題ない」といった認知を付け加えて自分の行動を正当化するのは、その一例である。
こちらの説明は、定義・構造・例の三点がきれいに整理されています。
「二つ以上の認知」「矛盾」「心理的緊張状態」という構成要素が明確に書かれており、
さらに具体例で理論の働きを示しているので、読んでいる人がイメージを掴みやすいです。
ここまで書ければ、採点者から見ても“精度の高い描写”と評価されます。
「分かる」と「説明できる」は別物です
心理学の筆記試験で求められているのは、「知識量」ではなく「再現力」です。
つまり、頭の中の理解を、他人が読んで理解できる文章に変換できるかどうか。
この力が、大学院での学びにも直結します。
だからこそ、勉強のときも「覚える」より「描写する」ことを意識してみてください。
たとえば、「この用語を初めて学ぶ友人に説明するとしたら、どう言えば伝わるだろう?」と想像してみる。
それだけでも、理解の深さがまったく変わります。
まとめ
- 心理大学院の筆記試験で見られているのは、「正確な理解を言葉で再現できるか」
- 曖昧な表現や印象的な言葉は避けて、定義・構造・文脈の三点を意識する
- 「分かる」ではなく、「正確に描写できる」状態を目指す
心理学の学びって、最終的には「曖昧な心を、正確に語る技術」なんですよね。
だからこそ、言葉を磨くことが、知識を深めることでもあるんです。



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